1 損害賠償額の3つの基準
交通事故の損害賠償額の算定基準は、自賠責保険の基準、保険会社の基準、裁判所の基準の3つがあります。
(1)自賠責保険の基準
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)は、法律により加入を義務づけられている強制保険です。
自賠責保険は、交通事故による人身損害(傷害または死亡による損害)を最低限度賠償するものであり、算定基準は法律で定められています。
金額は、通常、3つの基準の中で最も低い額です。
物的損害(物損)は、自賠責保険の対象外であり、自賠責保険では賠償されません。
(2)保険会社の基準
加害者が自動車保険に加入している場合は、保険会社による賠償となります。
自動車保険は、加入を強制されていない自動車保険ですが、多くの人が加入しています。
保険会社による人身損害(傷害または死亡による損害)に対する賠償の提示額は、保険会社が独自に算定基準を定めており、通常、自賠責保険の基準より高い額ですが、裁判所の基準よりも低い額です。
物的損害(物損)は、通常、保険会社による賠償の問題となります。
(3)裁判所の基準
示談交渉による適正な解決が難しい場合は、裁判などによる解決が図られます。
裁判所が人身損害(傷害または死亡による損害)の金額の算定に用いる基準は、3つの基準の中で最も高い金額です。
2 損害賠償額のチェックポイント
保険会社からの人身損害(傷害または死亡による損害)に対する賠償の提示額を検討するにあたっては、様々なチェックポイントがあります。
主なものは、次の損害項目です。
損害項目の内容・詳細はこちら
●損害賠償の範囲について・その1(人身損害)
●後遺障害(後遺症)について
(1)休業損害
休業損害とは、交通事故のために休業を余儀なくされたことによる減収のことですが、保険会社の基準では、有職者の場合、実際よりも低く見積もった減収の金額を提示してくることがあります。
また、主婦の場合、家事労働も金銭評価されるところ、1日あたりの休業損害額を独自の基準で6000円程度としたうえ、その額に入院日数ないし通院日数を掛けた金額を提示してきます。
しかし、裁判所の基準では、有職者の場合、実際に発生した減収の金額がきちんと認められます。
また、主婦の場合、1日あたりの休業損害額は、女子の平均年収を日割りして算出され、その額は9000円以上になります。
そして、家事に支障があったのは、必ずしも入院ないし通院した日だけとは限らないところ、治療に要した期間の総日数中、家事にどの程度の支障があったのかを考慮して、上記1日あたりの休業損害額をベースに、休業損害の金額が計算されます。
休業損害の金額は、こうした裁判所の基準による方が高くなります。
(2)傷害慰謝料
傷害慰謝料の金額は、主に傷害の内容(他覚症状がないむちうち症か、それ以外か)、入院ないし通院の期間により、算出されます。
傷害慰謝料の金額も、保険会社の基準と裁判所の基準とでは、相当の差があり、裁判所の基準の方が高いです。
(3)後遺障害(後遺症)逸失利益
後遺障害(後遺症)逸失利益の金額は、収入額(主婦の場合は、女子の平均年収)に対し、後遺障害(後遺症)による労働能力喪失率(労働能力を失う割合)を掛け、労働能力喪失期間(労働能力が失われる期間)に応じて算出されます。
労働能力喪失率は、1級の100%から14級の5%まで、等級に応じて決まります。
後遺障害(後遺症)逸失利益の金額は、労働能力喪失期間を長く認めるほど高くなります。
裁判所の基準では、保険会社の基準よりも、労働能力喪失期間が長く認められます。
例えばむちうち症ならば、裁判所の基準では、ケースによりますが、12級で10年、14級で5年などが目安とされるのに対し、保険会社の基準では、12級で4~5年、14級で2~3年などとして計算してくるケースが多いように思います。
裁判所の基準の方が労働能力喪失期間を長く認め、よって後遺障害(後遺症)逸失利益の金額が高くなります。
(4)後遺障害(後遺症)慰謝料
後遺障害(後遺症)慰謝料の金額は、主に後遺障害(後遺症)等級により、算出されます。
裁判所の基準では、1級の2800万円から14級の110万円まで、等級に応じて標準額があります。
これに対し、保険会社の基準では、1級で1100万円~1800万円程度、14級で40万円~50万円程度など、独自の金額が提示されます。
裁判所の基準の方が金額が高いです。
(5)死亡逸失利益
死亡逸失利益には、給与所得・事業所得・家事労働に関する稼働部分と、高齢者の場合は年金部分があります。
死亡逸失利益の稼働部分の金額は、収入額(主婦の場合は、女子の平均年収)から、死亡により支出を免れる生活費分として収入額の何割かを引いた金額につき(この割合を「生活費控除率」といいます)、生きていれば今後稼働できたであろう年数(この年数を「就労可能年数」といいます。
一般的には、原則として67歳まで、高齢者の場合は統計による当該年齢からの平均余命年数の2分の1とされます)に応じて算出されます。
死亡逸失利益の年金部分の金額は、年金額から、死亡により支出を免れる生活費分として年金額の何割かを引いた金額につき(生活費控除率)、生きていれば今後年金を取得できたであろう年数(統計による当該年齢からの平均余命年数)に応じて算出されます。
死亡逸失利益の金額は、生活費控除率を低く認めるほど高くなります。
裁判所の基準では、稼働部分の生活費控除率につき、一家の支柱で被扶養者1人の場合は40%、一家の支柱で被扶養者2人以上の場合は30%、女性(主婦・独身・幼児などを含む)の場合は30%、男性(独身・幼児などを含む)の場合は50%が目安とされます。
年金部分の生活費控除率は、稼働部分より高くされる例が多いです。
これに対し、保険会社の基準では、例えば、稼働部分の生活費控除率を女性の場合でも50%とするなど、裁判所の基準よりも被害者に不利な水準で計算してくるケースが多いように思います。
また、裁判所の基準では、年金部分の死亡逸失利益につき、就労可能年数と平均余命年数の重複する期間では、稼働部分の死亡逸失利益と年金部分の死亡逸失利益を両方認めますが、保険会社の基準では、就労可能年数は稼働部分の死亡逸失利益のみを認めて年金部分の死亡逸失利益を認めず、就労可能年数以降の平均余命年数のみ年金部分の死亡逸失利益を認めるとするケースが多いように思います。
以上の結果、裁判所の基準の方が死亡逸失利益の金額が高くなります。
(6)死亡慰謝料
死亡慰謝料の金額は、主に被害者が一家の支柱、母親・配偶者、その他のいずれであるかにより、算出されます。
裁判所の基準では、一家の支柱で2800万円、母親・配偶者で2400万円、その他で2000万円~2200万円という標準額があります。
これに対し、保険会社の基準では、一家の支柱で1500万円~2000万円程度、それ以外で1100万円~1600万円程度など、独自の金額が提示されます。
裁判所の基準の方が金額が高いです。
3 弁護士へのご相談・ご依頼のおすすめ
人身損害(傷害または死亡による損害)について、保険会社から損害賠償額の提示があった場合、それが妥当な額なのかどうか、多くの被害者の方にはわかりづらいと思います。
まずは、弁護士に相談されることをおすすめします。
また、弁護士に依頼すれば、より多くの損害賠償を得ることが期待できます。
保険会社は、一般の方と示談交渉するときは、保険会社の基準に基づき、損害賠償額を提示してきます。
これに対し、示談交渉の依頼を受けた弁護士は、裁判所の基準に基づき、損害賠償額を主張していきます。
そうすると、保険会社は、裁判所の基準を熟知している弁護士が介入したことを受け、訴訟(裁判)の可能性を見据えた提示額の再考を余儀なくされ、提示額を上げてくることも少なくありません。
これに対し、一般の方がインターネットなどで自分で裁判所の基準を調べ、保険会社に対し、 裁判所の基準による損害賠償額を主張して、示談交渉をされるケースがまま見られます。
しかし、保険会社は、一般の方が相手では、わずかな金額の上乗せをしたとしても、被害者が納得できるような本格的な増額に応じることはまずありません。
弁護士が代理人として介入してはじめて、訴訟(裁判)の可能性を見据えた本格的な増額を検討するのです。
早めに弁護士に依頼される方がよいでしょう。
さらに、保険会社との示談交渉による適正な解決が難しいときは、損害賠償を請求する訴訟(裁判)を裁判所に提起することになります。
訴訟(裁判)では、もちろん裁判所の基準で審理が進んでいきます。
もっとも、その手続は、一般の方にとっては簡単なものではありません。
弁護士は訴訟(裁判)手続の専門家です。
弁護士に依頼すれば、複雑な訴訟(裁判)手続に難なく対応することができます。
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