代表弁護士で温泉ソムリエの木村哲也です。

最近の休日は、青森県内各地の温泉によく足を運んでいます。

今回の日常コラムでは、温泉に関連する法的な話題と、最近訪れた青森県内の温泉のご紹介を中心にお話させていただきます。

【目次】
1 宿泊契約と宿泊約款
(1)宿泊契約
(2)宿泊約款
2 ロマントピア温泉
3 温泉施設における転倒事故と損害賠償責任
(1)はじめに
(2)盛岡地方裁判所平成23年3月4日判決:責任を肯定
(3)東京地方裁判所平成26年1月16日判決:責任を否定
(4)旭川地方裁判所平成30年11月29日判決:責任を否定
(5)まとめ
4 ポニー温泉
5 入浴・宿泊拒否に関する法的ルール
(1)はじめに
(2)入浴拒否に関する法的ルール
(3)混浴制限年齢
(4)宿泊拒否に関する法的ルール
(5)まとめ
6 奥入瀬渓流温泉(その2)
7 入れ墨・タトゥーがある客の入浴・宿泊拒否の適法性
(1)はじめに
(2)入れ墨・タトゥーがある客の入浴拒否の適法性
(3)入れ墨・タトゥーがある客の宿泊拒否の適法性
(4)まとめ
8 おわりに

1 宿泊契約と宿泊約款

(1)宿泊契約

私たちが温泉宿に宿泊する際には、必ず温泉宿との間で宿泊契約が締結されます。
宿泊契約とは、宿泊客とホテル・旅館とが合意をし、宿泊させることを内容とする契約です。

しかし、宿泊契約とはいっても、宿泊契約書を取り交わす手続は通常は行われていません。
日本の法律では、契約は書面でなくても口頭だけで成立するとされており、契約書の締結は必須というわけではないのです。

宿泊契約の成立には、いくつかのパターンがあります。
電話で宿泊の予約をする場合には、宿泊希望者がホテル・旅館に電話をし、宿泊日・人数・プランなどを取り決めて予約が確定した時に、宿泊契約が成立したことになります。
また、インターネットで宿泊の予約をする場合には、必要事項を入力するなどしたうえで、予約が完了した旨の画面が表示された時に、予約が成立したことになります。

【旅館】
【旅館】

(2)宿泊約款

ところで、ホテル・旅館では、宿泊拒否の条件、客室の利用時間、料金の支払方法などのルールを定めた宿泊約款を作成していることが一般的です。
なお、宿泊約款の作成は基本的には任意ですが、政府登録ホテル・旅館(国際観光ホテル整備法の基準を満たし、インバウンド客が安心して利用できる宿泊施設として、一定のサービスレベルが保証されたホテル・旅館)では必ず作成し、観光庁へ提出することが義務付けられています(国際観光ホテル整備法11条1項・18条2項)。

民法上、宿泊契約のように不特定多数の者を対象とする画一的な取引のことを「定型取引」といいます。
そして、定形取引の契約内容に組み入れることを目的として準備された約款(ルール)のことを「定型約款」をいい、宿泊約款はこの定型約款にあたります。
定型約款は、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、または定型約款の準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を表示していたときは、定型約款に従う合意をしたものとみなされるのが原則です(民法548条の2第1項)。

したがって、例えばインターネットで宿泊の予約をする際に、予約画面で宿泊約款に従う旨のチェックボックスにチェックを入れたような場合には、宿泊約款に従う義務が生じることとなります。
宿泊約款は、ホテル・旅館のホームページに掲載されていることが多く、通常は客室にも設置されていますので、一度目を通してみるのも面白いかもしれません。

2 ロマントピア温泉

ロマントピア温泉は、弘前市にある温泉です。
1989年(平成元年)の「星と森のロマントピア」様は、温泉、プール、バーベキュー、天文台などを楽しめるレジャー施設であり、ホテル・コテージでの宿泊も可能です。

【宿の外観】

2024年10月某日、ロマントピア温泉を訪れました。
ロマントピア温泉に来るのは今回が初めてであり、「星と森のロマントピア」様に宿泊しました。

【宿の外観】

2024年10月某日、ロマントピア温泉を訪れました。
ロマントピア温泉に来るのは今回が初めてであり、「星と森のロマントピア」様に宿泊しました。

「星と森のロマントピア」様の温泉は、大浴場(内風呂)と露天風呂の2種類があり、いずれも岩木山を一望することができます。

【温泉】

※温泉の写真は「Amazing AOMORI」(青森県観光情報サイト)の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

泉質は「ナトリウム・カルシウムー塩化物泉(高張性弱アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

【温泉】

※温泉の写真は「Amazing AOMORI」(青森県観光情報サイト)の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

泉質は「ナトリウム・カルシウムー塩化物泉(高張性弱アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

泉質別適応症 きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
泉質別禁忌症 なし

その他、以下のような効能があるとされています。
①「塩化物泉」は、温泉の成分が肌に吸着しやすく保温・保湿効果が高いため、湯冷めしにくく湯上り後の肌の乾燥が抑制されるという特徴があるとされています。
②アルカリ性・弱アルカリ性の温泉は、古い角質を除去する美肌効果があるとされています。

美しい景色を眺めながらの温泉入浴を楽しんだあとは、お食事です。
「星と森のロマントピア」様のお食事は、夕食は青森県産食材を多く使用した和食膳、朝食はビュッフェ料理をいただきました。

【夕食】
 

 

【朝食】

【夕食】

 

 

 

【朝食】

3 温泉施設における転倒事故と損害賠償責任

(1)はじめに

温泉などの温浴施設では、濡れた床面に足を滑らせるなどし、転倒する事故が数多く発生しています。
温泉施設の場合には、床面が温泉成分等を含んだぬめりのある水で濡れていることも珍しくなく、滑りやすくなっていることも多いです。

【風呂場で転倒】

温浴施設で転倒事故が発生した場合、温浴施設側の不備が転倒の原因となったのであれば、温浴施設側の損害賠償責任が問題となります。
温浴施設側の損害賠償責任の法的根拠としては、工作物責任と安全配慮義務違反が問題となることが多いです。
工作物責任とは、温浴施設など土地の工作物の設置または保存の瑕疵により他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者(管理者)・所有者が損害賠償責任を負うことです(民法717条)。
安全配慮義務違反とは、温浴施設側が転倒防止など入浴者の安全に配慮する義務を負うところ、この義務に違反した場合に温浴施設側が損害賠償責任を負うことです。

以下では、温浴施設側の損害賠償責任に関する裁判例をご紹介いたします。

【風呂場で転倒】

温浴施設で転倒事故が発生した場合、温浴施設側の不備が転倒の原因となったのであれば、温浴施設側の損害賠償責任が問題となります。
温浴施設側の損害賠償責任の法的根拠としては、工作物責任と安全配慮義務違反が問題となることが多いです。
工作物責任とは、温浴施設など土地の工作物の設置または保存の瑕疵により他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者(管理者)・所有者が損害賠償責任を負うことです(民法717条)。
安全配慮義務違反とは、温浴施設側が転倒防止など入浴者の安全に配慮する義務を負うところ、この義務に違反した場合に温浴施設側が損害賠償責任を負うことです。

以下では、温浴施設側の損害賠償責任に関する裁判例をご紹介いたします。

(2)盛岡地方裁判所平成23年3月4日判決:責任を肯定

【事案の概要】
48歳の男性が、日帰り入浴のためにホテルAの大浴場を利用中、内風呂の中央部分に設置された2段の階段を降りようとしたところ、滑って転倒した。
ホテルA(原告)が「損害賠償責任がないこと」の確認を求めて提訴し、男性(被告)がホテルAに損害賠償責任があるとして争った事案。

【工作物責任に関する裁判所の判断】
“確かに、本件階段部分に用いられている御影石は、十和田石よりも濡れたときに滑りやすいものであることは否定し難いが、ジェットバーナー仕上げ等がされており、一般的に浴場の床材に使用されているものである。しかも、ホテルAの浴場は源泉かけ流しとはいえ、平成21年7月当時も毎日床の清掃がされていたことがうかがわれる。そして、ホテルAは開業から20年以上経っているとはいえ、その程度の期間経過により、直ちに温泉施設の床として通常備えているべき安全性を欠くに至ったとまでいえるかは疑問もあり、証拠上、本件階段部分の床がそのような安全性を欠いていたとまで認めることもできない。
また、内風呂の中央部分に階段があることについては、確かに、階段がないのがベストであるとはいえるものの、構造上や設計上その他の必要から階段を設置した場合に、そのことが直ちに「瑕疵」とまでいえるかは疑問がある。現に、温泉施設に階段を含めた段差が設けられている例もあるところ、そのような段差があれば、相当の確率で転倒事故が発生するとまで認めることはできず、これまで他に本件階段部分での転倒による重大事故は発生していないことをも考慮すれば、階段が設置されていることが直ちに「瑕疵」であるということはできない。
以上より、工作物責任に関する被告の主張は理由がない。”

【安全配慮義務違反に関する裁判所の判断】
“本件階段部分に瑕疵があるとまでいえないとしても、浴場の利用者は通常、床を素足で歩くのであり、しかも、本件階段部分は浴場の中央部分であり、近くに浴槽や洗い場があることからすると、源泉かけ流しの温泉の湯又は洗い場から流れてきた湯水で濡れていることが多いと考えられる。そして、上述したとおり、御影石はジェットバーナー仕上げ等をしたとしても十和田石よりも滑りやすいことは否定し難い。
しかも、本件転倒事故の現場は階段になっており、階段を上り下りしようとするときは片足を上げた状態になり、しかも体の重心が前後に移動することもあって、瞬間的に、体の中心よりも後ろ側に重心が傾き、結果として背部から転倒しやすくなることも明らかである。そして、本件階段部分の横の長さは約3メートルであり、相当広いといえる。
そうすると、本件階段部分の床が水分で濡れている状態で、素足で歩くと、滑り抵抗値が少なくなる結果、滑ってしまう可能性があり、いったん滑ってしまうと転倒は避けられないと認められる。なお、本件階段部分の御影石にはグラインダーで溝がつけられているというものの、その溝は大した深さではなく、溝と溝との間隔も広いから、滑った際にそれを食い止める程の力はないことが明らかである。”
“しかも、本件階段部分に至る通路の床材は原告も最も滑りにくいという十和田石であるのに対し、本件階段部分はジェットバーナー仕上げ等がされているとはいえ、濡れると滑りやすい御影石であり、通路を通って本件階段部分に至ると滑りやすさが変わるという事情も認められる。そして、滑りにくい場所から滑りやすい場所に来たときには、滑る可能性を意識しづらい結果、予期せずして滑ってしまうことも想定される。
それだけでなく、温泉にはリラックスをしに行く場合も多く、注意が散漫になりがちであり、しかも、本件の階段は横に広く、段差がわずか2段であるがゆえに、利用者が滑らないように注意をしなければという気持ちを抱きにくいという特殊性も認められる。”
“そして、ホテルAは客室だけで750名の収容が可能な岩手県でも有数のホテルであり、浴場の利用者も多く、その年齢等もまちまちであることがうかがわれる。
しかも、ホテルAの大浴場には、内風呂の奥に檜風呂があったり、外に露天風呂があったりし、大浴場内で度々移動することが予定されており、この移動に伴う滑りの危険性への対策の必要性がより認められるところである。”
“以上のことを踏まえると、原告には、浴場の利用者に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、利用者が本件階段部分において滑って転倒しないように配慮すべき義務があったというべきである。ただし、温泉施設の床が滑りやすいことは一般的に認識されていることであり、施設の設置者だけに一方的な義務があると考えることは相当ではなく、上記義務は利用者が一定の注意を払うことを前提としたものと理解すべきと考えられる。
具体的には、利用者に分かりやすく転倒への注意喚起の表示をしたり、床についてさらなる滑りへの対策をしないのであれば、利用者の動線上に手すりを設置したりするなど、利用者が注意を払うことと相まって、トータルとして転倒を防止することができる程度の対策を講じたりすべき義務があると考えられる(床材を十和田石のような滑らないものにしたり、本件階段部分にマットを敷いたりすることによって滑り自体を生じなくすることも一つの対策の講じ方と考えられる。)。”
“以上のことを踏まえ、原告が上記のような義務を果たしたといえるかをみてみると、確かに、内風呂の入り口付近に転倒への注意喚起の立看板や表示がされていたが、上述のとおり、本件階段部分には他の部分よりも滑りやすいという特性があるのであり、温泉施設全般に関する注意喚起とは別に、分かりやすく本件階段部分に対する注意喚起の表示をすべきであったと考えられる。しかし、本件階段部分には注意喚起の表示はされていなかったというのである。
また、本件階段部分の床について、ジェットバーナー仕上げにして溝をつけただけで、それ以上の滑りへの対策は特にされていなかったし、本件階段部分付近に手すりも設置されていなかったというのである。
なお、原告は本件階段部分の浴槽とは反対側に袖壁があると指摘しているが、上述のとおり、階段の横の長さは約3メートルであり、浴槽側を通る場合には、袖壁を手すりとして用いることはできないことになり、袖壁があるから滑りへの対策が十分であるということにはならない。
そうすると、原告は、私法上、利用者に対して果たすべき上記義務を十分に履行していなかったといわれても仕方ないと考えられる。”

(3)東京地方裁判所平成26年1月16日判決:責任を否定

【事案の概要】
50歳の女性(原告)が、浴場施設(被告)で入浴中、外湯の源泉岩風呂から出ようと階段に足をかけた際に転倒した。

【工作物責任に関する裁判所の判断】
“たしかに、本件浴場の泉質はややph値が高いが、本件階段部分の床は、表面が凸凹した美濃石を乱貼りにしてあり、温泉場の防滑対策としては一般的な仕様であるものと認められ、転倒防止のための手すりが片側に付いていた。
本件階段部分は、手すりの根本が、源泉岩風呂の腰をかける円状の座面部分から設置されているために、入浴客が手すり根本の周囲に腰をかけ、通行が妨げられることもあると思われ、また本件階段の幅からして、入る客と出る客が同時に階段を通行することも想定され、本件階段部分には、両側に手すりを設置することが望ましいと考えるが、源泉岩風呂の大きさから、同時に入浴できる客の数はそう多くはないと思われることも踏まえると、本件階段の片側のみに手すりを設置したことが、設置の瑕疵にあたるとまではいい難い。
そして、本件階段床部分の石が、開業からの期間経過により、温泉施設の床として通常備えているべき安全性を欠くに至ったと認めるに足る証拠はなく、本件浴場は、毎日清掃が実施されていて、本件階段部分に保存の瑕疵があったということもできない。
以上により、土地工作物責任に関する原告の主張には理由がない。”

【安全配慮義務違反に関する裁判所の判断】
“前記のとおり、本件階段部分に瑕疵があるとまではいえないとしても、浴場の利用者は床を素足で歩くのであり、本件浴場は、内湯、外湯に他種類の風呂が設置され、浴場内の客の移動が予定されているから、移動に伴う客の転倒防止等への配慮が求められるところであり、被告には、浴場の利用者に対する信義則上の義務として、利用者が本件階段部分において滑って転倒しないように配慮すべき義務があったというべきである。ただし、温泉施設の床が滑りやすいことは一般的に認識されていることであるから、上記義務は利用者が一定の注意を払うことを前提としたものと理解すべきと考えられる。
これを本件についてみるに、本件浴場における転倒防止への注意喚起は、入浴する客が必ず通る動線上の脱衣場入り口の暖簾をくぐった正面ロッカー壁面及び多数の者が目にすると思われる浴場内のかけ湯の壁面に掲示され、本件階段床の防滑状況は前記2のとおりであり、源泉岩風呂からかけ流された湯は、本件階段部分ではなく、隣接する岩風呂に流されていたので、本件階段部分は、入浴客の出入り等で濡れることはあっても、常時水が溜まる状況だったとまでは認められず、また、原告は浴槽から上がるところであったので、体全体及び足の裏が濡れていたものと推認され、足元が滑りやすくなっていたから、原告において、手すりのある側を通るように一定の注意を払うことも期待されるところ、これが困難であった事情はうかがえず、原告の供述からすると、本件事故発生時に原告が本件階段の手すり自体にあまり注意を向けていなかったことは否定しがたい。
原告の転倒後の被告側の対応には、受傷した原告への配慮に欠ける面が見受けられるものの、原告の転倒自体については、被告がした上記の安全対策をして、安全配慮義務違反があるとは認められない。”

(4)旭川地方裁判所平成30年11月29日判決:責任を否定

【事案の概要】
85歳の女性(故人。その法定相続人が原告ら)が、温泉施設(被告)を利用中、脱衣所から通路を通って浴場に足を踏み入れた際に足を滑らせて転倒した。

【裁判所の判断】
“原告らは、被告には、本件浴場入口部分にある段差の浴場側にゴムマットを敷いたり、本件浴場入口部分にある段差の浴場側の床タイルに切り込みを入れたりする義務があったのに、これらを怠った旨主張し、根拠として①本件浴場入口部分には相当程度の段差があり、その段差の浴場側の床タイルがすり減った状態であったこと、②他の温泉施設では、浴場入口付近に滑り止めのゴムマットが敷かれていること、③被告が、本件転倒事故後に、本件浴場入口部分にある段差の浴場側の床タイルに切り込みを入れたこと、④本件浴場入口部分にある段差の浴場側が石鹸水や水あか等で滞留した状態であったこと、⑤本件通路内のバスマットがびしょびしょに濡れていた状態であったことを挙げる。
しかし、上記①については、本件浴場入口には約8cmの段差があるが、段差があるからといって、その段差の浴場側にゴムマットを敷いたりする義務があるとはいえない。
また、床タイルについては、本件転倒事故が起こった時点で、本件施設の開設から約21年が経過しており、本件浴場入口部分にある段差の浴場側の床タイルが一定程度すり減っていたと考えられるが、床タイルがすり減ったからといって滑りやすくなるとは認められない。さらに、仮にタイルがすり減った場合に滑りやすくなるとしても、ゴムマットを敷く等すべき義務が生じるほど、床タイルがすり減っていたと認めるに足りる証拠はない。
上記②については、他の温泉施設で、浴場入口部分の浴場側に滑り止めのゴムマットが敷かれているからといって、被告も本件浴場入口部分にある段差の浴場側に滑り止めのゴムマットを敷く義務があったとはいえない。
上記③については、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告が、本件転倒事故後に、本件浴場入口部分にある段差の浴場側の床タイルに切り込みを入れたことが認められるが、被告が本件転倒事故を受けて、再発防止のために床タイルに切り込みを入れたからといって、本件事故以前から、本件浴場入口部分にある段差の浴場側にゴムマットを敷いたりする義務があったことにはならない。
上記④、⑤については、本件浴場入口部分にある段差の浴場側が石鹸水や水あか等で滞留した状態であったことや本件通路内のバスマットがびしょびしょに濡れていたことを認めるに足りる証拠はない。もっとも、浴場は、人が体を洗ったり、お風呂に入ったりする場所であるので、その入口付近では、体を洗った際の石鹸水等が流れ込んでくることもあれば、浴場と脱衣所の間の通路のバスマットは、浴場から出て来た人の体に付着した水分を吸い込むことで濡れていることがあると思われるが、浴場施設の利用者としてはそういったことがあることを想定し、転倒しないように注意して行動すべきであって、原告らが指摘する上記④、⑤の事情があったからといって、被告に、本件浴場入口部分にある段差の浴場側にゴムマットを敷いたりする義務があったとはいえない。
したがって、原告らの上記主張は、採用することができない。”
“原告らは、被告には、浴場内で客が転倒しないよう、適切に床の状態を維持・管理するなどして入浴客が安全に浴場を利用できるようにする安全配慮義務を負っており、また、浴場内が滑りやすいことを注意したりする義務があったのにこれらを怠った旨主張する。
しかし、証拠によれば、被告は、本件転倒事故以前から、本件浴場入口側のスライドドアの右側ガラス戸に「浴場内は、スベリますので、ご注意願います。」という横書きの掲示板を、掲示していたことが認められる。そうすると、被告は浴場が滑りやすいことを注意しており、その点に関して、被告には注意義務違反はない。その他、被告に安全配慮義務違反があったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告らの上記主張は、採用することができない。”
“以上によれば、本件転倒事故につき、被告に安全配慮義務違反があったとは認められない。”

(5)まとめ

温浴施設の有責・無責の判断は、これをやっておけば無責・これをやらなければ有責という基準を一概に示すことはできません。
一方で、以上の各裁判例などを分析すると、工作物責任および安全配慮義務違反の有無を判断する際には、以下のような要素が考慮されることが分かります。

【工作物責任の判断要素】
①床の材質・状態(滑りやすいかどうか)
②転倒防止対策の有無・内容(床の加工・手すりの設置・清掃の実施など)
③過去の転倒事故発生の有無 など
特に①②が重視されると考えられます。
床面に一般的な素材よりも滑りやすい特殊な素材が使用されているなどの事情があれば、工作物責任が認められる可能性が高まります。
温浴施設としては、床面が他の一般的な温浴施設と比較して滑りやすいものではないかという点に十分に注意する必要があるでしょう。

【安全配慮義務違反の判断要素】
①床の材質・状態(滑りやすいかどうか)
②転倒箇所における転倒危険性(階段、水で濡れやすい場所・溜まりやすい場所などは転倒を誘発しやすい)
③温浴施設の構造(浴室内で入浴者が度々移動することが予定されていれば、移動に伴う転倒に対する防止策の必要性が高まる)
④床が滑りやすいことに対する注意喚起の有無
⑤転倒防止対策の有無・内容(床の加工・手すりの設置・清掃の実施など)
⑥転倒者が転倒するに至る経緯・動向・状態 など
温浴施設としては、浴槽の周辺だけに限らず、床が滑りやすい箇所に床の加工や注意喚起の掲示をし、転倒危険性の高い階段などの付近には手すりを設置し、多くの入浴者が行き来する場所には頻繁な清掃などにより水濡れを防止するなど、十分な転倒防止対策を講じる必要があります。

4 ポニー温泉

ポニー温泉は、十和田市にある温泉です。
ドライブインと民宿を経営していた創業者が、宿泊客に温泉を提供したいと考えてボーリングを実施したところ、見事に源泉を掘り当て1977年(昭和52年)に開業しました。
その時に創業者が馬を飼っていたこと、十和田市が馬の産地であったことにちなんで、ポニー温泉と名付けられました。

【宿の外観】

2024年10月某日、ポニー温泉を訪れました。
ポニー温泉には何度か来たことがあり、「ホテルポニー温泉」様に宿泊しました。

【宿の外観】

2024年10月某日、ポニー温泉を訪れました。
ポニー温泉には何度か来たことがあり、「ホテルポニー温泉」様に宿泊しました。

「ホテルポニー温泉」様では、日帰りでも利用できる大浴場と、宿泊者専用の内風呂・露天風呂で温泉入浴を楽しむことができます。
泉質は「アルカリ性単純温泉(低張性アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

泉質別適応症 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
泉質別禁忌症 なし

その他、アルカリ性の温泉は、古い角質を除去する美肌効果があるとされています。

「ポニー温泉」様の湯は、ヌルヌルとした浴感が強く、肌がスベスベになりました。
秋も深まり肌寒くなってきていたところ、温泉入浴で体をしっかりと温めながら一日の疲れを癒しました。

なお、温泉(浴室)の写真は「ホテルポニー温泉」様の公式サイトをご覧ください。

そして、「ホテルポニー温泉」様でのお食事は、夕食では「駒の街」十和田市の名産さくら肉(馬肉)を使用したバラ焼きと馬刺しなどのお料理をいただきました。
朝食では、ブッフェ料理をいただきました。

【夕食】
 

【朝食】

【夕食】

 

 
【朝食】

5 入浴・宿泊拒否に関する法的ルール

(1)はじめに

温泉施設・温泉宿の入浴・宿泊拒否に関し、法律によりルールが定められていることはご存じでしょうか?

以下では、温泉施設・温泉宿の入浴・宿泊拒否に関する法的ルールについてご説明いたします。

【入浴・宿泊拒否】
【入浴・宿泊拒否】

(2)入浴拒否に関する法的ルール

温泉施設の入浴拒否に関する法的ルールは、公衆浴場法に定められています。
公衆衛生の観点からの法的ルールであり、関係する条項は以下のとおりとなります。

【公衆浴場法】

第4条 営業者は伝染性の疾病にかかっている者と認められる者に対しては、その入浴を拒まなければならない。但し、省令の定めるところにより、療養のために利用される公衆浴場で、都道府県知事の許可を受けたものについては、この限りでない。
第5条 入浴者は、公衆浴場において、浴そう内を著しく不潔にし、その他公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為をしてはならない。
営業者又は公衆浴場の管理者は、前項の行為をする者に対して、その行為を制止しなければならない。

(3)混浴制限年齢

温泉施設の入浴拒否に関連して、混浴制限年齢についてもご説明いたします。

国は、2020年(令和2年)12月に「公衆浴場における衛生等管理要領」を改正し、公衆浴場における混浴制限年齢をおおむね10歳以上からおおむね7歳以上に引き下げました。

公衆浴場法3条1項では「営業者は、公衆浴場について、換気、採光、照明、保温及び清潔その他入浴者の衛生及び風紀に必要な措置を講じなければならない」と定められ、3条2項では「前項の措置の基準については、都道府県が条例で、これを定める」と定められています(なお、「都道府県」とあるのは、保健所を設置する市または特別区にあっては、「市または特別区」と読み替えられます)。
多くの地方公共団体では、「公衆浴場における衛生等管理要領」の改正に伴う条例の改正がなされています。

青森市や八戸市の公衆浴場法施行条例でも、「7歳以上の男女を混浴させないこと。ただし、市長がその利用形態から風紀上支障がないと認める場合は、この限りでない」と定められています。

(4)宿泊拒否に関する法的ルール

温泉宿の宿泊拒否に関する法的ルールは、旅館業法に定められています。
宿泊施設の公共性を踏まえ、一定の場合を除いて宿泊を拒否してはならないという法的ルールとなっています。

【旅館業法】

第5条
営業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。
宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき。
宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。
宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
営業者は、旅館業の公共性を踏まえ、かつ、宿泊しようとする者の状況等に配慮して、みだりに宿泊を拒むことがないようにするとともに、宿泊を拒む場合には、前項各号のいずれかに該当するかどうかを客観的な事実に基づいて判断し、及び宿泊しようとする者からの求めに応じてその理由を丁寧に説明することができるようにするものとする。

上記の旅館業法5条1項3号は、2023年(令和5年)の改正により追加され、カスタマーハラスメント(カスハラ)に該当する特定の要求を行った者の宿泊を拒むことができるとされました。
そして、旅館業法施行規則5条の6では、厚生労働省令で定めるカスハラ行為とは、次のいずれかに該当するものであって、他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるものを指すと定められています。
①宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求
②粗野または乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であって、その要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるもの

さらに、旅館業法5条1項4号に関し、青森市や八戸市の旅館業法施行条例では、次の事由が定められています。
①宿泊しようとする者が、泥酔者であって、宿泊者または営業者に著しく迷惑を及ぼすおそれがあると認められるとき
②宿泊しようとする者が、宿泊者名簿(※)に記載すべき事項について、営業者から請求があっても告げず、または事実を偽って告げたとき

※旅館業法6条1項では「営業者は、厚生労働省令で定めるところにより旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、連絡先その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があったときは、これを提出しなければならない」と定められ、6条2項では「宿泊者は、営業者から請求があったときは、前項に規定する事項を告げなければならない」と定められています。

(5)まとめ

以上のとおり、温泉施設・温泉宿の入浴・宿泊拒否に関し、様々なルールが法令により定められています。

温泉施設・温泉宿は、ルールとマナーを守って楽しく利用するようにしましょう。

6 奥入瀬渓流温泉(その2)

奥入瀬渓流温泉は、「弁護士の日常コラム」では2回目のご紹介となります。

【奥入瀬渓流温泉】

2024年12月某日、「灯と楓」様に宿泊しました。
「灯と楓」様には過去にも宿泊したことがあり、今回は再訪となります。

【宿の外観】

「灯と楓」様は、オーナーが廃業した温泉宿を買い取り、1年ほどかけて改装のうえ、2018年8月にオープンしました。
館内は、木のぬくもりが感じられるお洒落な空間です。

【宿の館内】
 

「灯と楓」様では、男女入替制の2つの浴場があり、1つは内風呂のみ、1つは内風呂と露天風呂で温泉入浴を楽しむことができます。
泉質は「単純温泉(低張性中性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

【奥入瀬渓流温泉】

2024年12月某日、「灯と楓」様に宿泊しました。
「灯と楓」様には過去にも宿泊したことがあり、今回は再訪となります。

【宿の外観】

「灯と楓」様は、オーナーが廃業した温泉宿を買い取り、1年ほどかけて改装のうえ、2018年8月にオープンしました。
館内は、木のぬくもりが感じられるお洒落な空間です。

【宿の館内】

 

「灯と楓」様では、男女入替制の2つの浴場があり、1つは内風呂のみ、1つは内風呂と露天風呂で温泉入浴を楽しむことができます。
泉質は「単純温泉(低張性中性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

泉質別適応症 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
泉質別禁忌症 なし
【温泉】
 
※温泉の写真はスタッフの方の許可を得て撮影しました。

「灯と楓」様の湯は、湯の花が舞う柔らかな泉質の温泉であり、風情ある雪見温泉を楽しむことができました。

そして、「灯と楓」様のお食事は、夕食では、季節野菜のバーニャカウダ、青森シャモロックの焼き鳥、青森シャモロックのスープしゃぶしゃぶなどのコース料理をいただきました。
朝食では、湯豆腐とかっけをメインとする朝食膳をいただきました。

【夕食】
 

 

【朝食】
 

【温泉】

 

※温泉の写真はスタッフの方の許可を得て撮影しました。

「灯と楓」様の湯は、湯の花が舞う柔らかな泉質の温泉であり、風情ある雪見温泉を楽しむことができました。

そして、「灯と楓」様のお食事は、夕食では、季節野菜のバーニャカウダ、青森シャモロックの焼き鳥、青森シャモロックのスープしゃぶしゃぶなどのコース料理をいただきました。
朝食では、湯豆腐とかっけをメインとする朝食膳をいただきました。

【夕食】

 

 

 

【朝食】

 

7 入れ墨・タトゥーがある客の入浴・宿泊拒否の適法性

(1)はじめに

温泉などの公衆浴場では、入れ墨・タトゥーがある客の入浴をお断りするという掲示をよく見かけます。
この点、入れ墨・タトゥーがある客の入浴・宿泊拒否を義務付ける法令はないため、各公衆浴場が自主的に設けているルールとなります。

このように、温泉施設・温泉宿が入れ墨・タトゥーのある客の入浴・宿泊を拒否した場合、法的な問題はないのでしょうか?
この問題について、以下でご説明いたします。

【入れ墨・タトゥー】
【入れ墨・タトゥー】

(2)入れ墨・タトゥーがある客の入浴拒否の適法性

公衆浴場法4条では、伝染性の疾病にかかっている者と認められる者に対しては、入浴を拒否しなければならないと定められています。
また、公衆浴場法5条では、浴槽内を著しく不潔にし、その他公衆衛生に害を及ぼすおそれのある行為をする者に対しては、その行為を制止しなければならないと定められています。

一方で、上記以外の者に対し、入浴拒否や制止をしなければならないとする定めはなく、逆に入浴拒否をしてはならないとする定めもありません。
そのため、入浴拒否に関する自主的なルールの設定は、基本的には各公衆浴場の裁量に委ねられると考えることができます。
ただし、外国国籍を有する者、日本に帰化した者の入浴を拒否することは違法な人種差別に当たるとして、損害賠償責任が認められた裁判例があります(札幌地方裁判所平成14年11月11日判決)。

入れ墨・タトゥーがある客の入浴拒否の問題に関し、観光庁は日本温泉協会などに対し平成28年3月16日付け「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に関する対応について」と題する事務連絡を発し、入浴規制を緩和するように呼びかけています。
観光庁は、その事務連絡において、宗教・文化・ファッション等の様々な理由により入れ墨・タトゥーをしている場合があること、入れ墨・タトゥーがあることにより衛生上の問題が生じるものではないことに留意すべきであるとし、シール等で入れ墨・タトゥー部分を覆うこと、家族連れの入浴が少ない時間帯の入浴を促す・複数の風呂がある場合には浴場を仕分けて案内する・貸切風呂がある場合には貸切風呂の利用を案内するなどの対応事例を示しています。

もっとも、観光庁の 呼びかけには法的な拘束力はありません。
現行の法令のもとでは、入れ墨・タトゥーがある客の入浴を拒否したとしても、違法とまでは言えないと考えるのが通常でしょう。
近年では、都市部や観光地を中心に入れ墨・タトゥーがある客の入浴を許容する温泉施設・温泉宿も増えてきているように見受けられます。
また、和彫りの入れ墨がある客の入浴のみを拒否する例、シールで入れ墨・タトゥー部分を覆えば可とする例も散見されます。
一方で、青森県の温泉施設を見ると、入れ墨・タトゥーがある客の入浴を拒否する温泉施設が多いように思われます。

入れ墨・タトゥーを宗教・文化・ファッションの面から考え、入浴拒否が不適切である、あるいは差別であるとする考え方も存在します。
しかし、明確に入浴拒否を禁止する法令の根拠もないのに、古くからの地元客で成り立っている温泉などの公衆浴場に対し、入れ墨・タトゥーがある入浴客の受け入れを強要することは、少なくとも現時点では適切ではないと私は考えます。

この問題も、将来的により一層、入れ墨・タトゥーに対し寛容な社会・時代に変化していけば、おのずと解決されていくのかもしれません。

(3)入れ墨・タトゥーがある客の宿泊拒否の適法性

旅館業法5条では、宿泊施設の公共性を踏まえ、一定の場合を除いて宿泊を拒否してはならないと定められています。

入れ墨・タトゥーと関係があり得るとすれば、旅館業法5条1項2号では「宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき」には宿泊拒否ができるとされています。
しかし、入れ墨・タトゥーをしているからといって直ちに「賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがある」とは言えないでしょう。

旅館業法5条2項では「営業者は、旅館業の公共性を踏まえ、かつ、宿泊しようとする者の状況等に配慮して、みだりに宿泊を拒むことがないようにするとともに、宿泊を拒む場合には、前項各号のいずれかに該当するかどうかを客観的な事実に基づいて判断し、及び宿泊しようとする者からの求めに応じてその理由を丁寧に説明することができるようにするものとする」と定められており、宿泊拒否の判断は慎重に行わなければなりません。

入れ墨・タトゥーがあることだけを理由に宿泊拒否をすれば、損害賠償請求を受け裁判所で違法と判断されるおそれがありますので、ホテル・旅館としては注意が必要です。

なお、温泉宿としては、入れ墨・タトゥーがある客の宿泊は拒否できないとしても、大浴場の入浴を拒否することはできるのか?という問題もあり得ます。
この問題については、露天風呂付き客室の宿泊客や貸切風呂のある温泉宿では客室露天風呂や貸切風呂の利用を案内することにより解決することもありますが、大浴場しかない温泉宿において宿泊客が来館して初めて入れ墨・タトゥーがあることに温泉宿側が気付く、というケースもあるでしょう。
このようなケースにおいて、大浴場の利用を拒否すればトラブルになることが想定されますので、温泉宿としては、シール等を渡して入れ墨・タトゥー部分を覆うことを案内するなどの対応が現実的であると考えられます。

(4)まとめ

以上のとおり、入れ墨・タトゥーがある客の入浴・宿泊拒否の適法性について、ご説明させていただきました。

この問題については、それぞれの立場から様々な意見があるところです。
一法律家として、今後の議論を興味深く注視したいと存じます。

8 おわりに

今回は、青森県の3つの温泉のご紹介と、温泉に関連する法的な話題についてお話しさせていただきました。

温泉に関する日常コラムは、今回で一段落となります。
今後、気が向けば新たな記事を追加することもあるかもしれません。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年12月19日

※本コラムの記事内容は、記事更新日時点の法令・指針および温泉分析書の掲示等に基づくものです。記事更新日以降に法令・指針の改正・改訂および温泉成分の再分析等、その他事情の変更があった場合でも、記事内容の加筆・修正等を行うことは予定しておりません。あらかじめ、ご了承ください。

温泉記事の一覧

【執筆者:代表弁護士・木村哲也】

番号 年月日 タイトル 内容
14 2024.12.19 代表弁護士の温泉紀行⑭ 青森県の温泉その14
【温泉紹介】
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①宿泊契約と宿泊約款、②温泉施設における転倒事故と損害賠償責任、③入浴・宿泊拒否に関する法的ルール、④入れ墨・タトゥーがある客の入浴・宿泊拒否の適法性
13 2024.10.23 代表弁護士の温泉紀行⑬ 青森県の温泉その13
【温泉紹介】
①大鰐温泉(その2)、②酸ヶ湯温泉(その2)、③梅沢温泉
【温泉解説】
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12 2024.9.27 代表弁護士の温泉紀行⑫ 青森県の温泉その12
【温泉紹介】
①板留温泉、②落合温泉、③下風呂温泉(その2)、④新大秋温泉
【温泉解説】
①温泉番付、②美人の湯、③子宝の湯、④湯めぐり、⑤温泉ソムリエマスター(その2)
11 2024.8.29 代表弁護士の温泉紀行⑪ 青森県の温泉その11
【温泉紹介】
①嶽温泉(その2)、②温湯温泉、③平舘不老ふ死温泉
【温泉解説】
①温泉地と名物グルメ、②温泉地と伝統工芸、③温泉地と文学、④温泉宿の後継者問題
10 2024.7.19 代表弁護士の温泉紀行⑩ 青森県の温泉その10
【温泉紹介】
①稲垣温泉、②五戸まきば温泉、③南田温泉
【温泉解説】
①温泉権、②温泉地役権、③温泉環境権、④宇奈月温泉事件
2024.7.2 代表弁護士の温泉紀行⑨ 青森県の温泉その9
【温泉紹介】
①古遠部温泉、②相乗温泉、③寒水沢温泉
【温泉解説】
①温泉偽装問題とは、②温泉偽装問題の影響、③近時の不祥事事例①温泉表示問題、④近時の不祥事事例②温泉の衛生問題
2024.6.19 代表弁護士の温泉紀行⑧ 青森県の温泉その8
【温泉紹介】
①百沢温泉、②三本柳温泉、③みちのく深沢温泉
【温泉解説】
①かけ流し・循環のメリット・デメリット、②入浴前に体を洗うか?かけ湯をするだけか?、③頭にタオルを乗せる理由、④内風呂と露天風呂ではどちらに先に入るか?
2024.6.5 代表弁護士の温泉紀行⑦ 青森県の温泉その7
【温泉紹介】
①古牧温泉、②浅虫温泉(その2)、③湯野川温泉
【温泉解説】
①入湯税と物価統制令、②温泉地の景観計画・景観形成、③飲泉、④温泉利用基準(水質基準を中心に)
2024.5.23 代表弁護士の温泉紀行⑥ 青森県の温泉その6
【温泉紹介】
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【温泉解説】
①温泉入浴の効果、②温泉入浴の3大効果、③効果的な温泉入浴の回数、④温泉ソムリエマスター
2024.5.9 代表弁護士の温泉紀行⑤ 青森県の温泉その5
【温泉紹介】
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【温泉解説】
①温泉法が定めるルール、②公衆浴場法・旅館業法が定めるルール、③温泉の表示に関するルール、④温泉の衛生管理に関するルール、⑤温泉経営における法務リスク
2024.4.17 代表弁護士の温泉紀行④ 青森県の温泉その4
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①環境省「令和4年度温泉利用状況」、②嶽温泉の源泉問題、③基本的な入浴法(全身浴・半身浴・足浴など)、④入浴事故を防止するための入浴法
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2024.3.26 代表弁護士の温泉紀行② 青森県の温泉その2
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2024.2.6 代表弁護士の温泉紀行① 青森県の温泉その1
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