代表弁護士で温泉ソムリエの木村哲也です。

最近の休日は、青森県内各地の温泉によく足を運んでいます。

今回の日常コラムでは、温泉に関する法律問題の解説と、最近訪れた青森県内の温泉のご紹介を中心にお話させていただきます。

【目次】
1 温泉権
2 稲垣温泉
3 温泉地役権
4 五戸まきば温泉
5 温泉環境権
6 南田温泉
7 宇奈月温泉事件
8 おわりに

1 温泉権

温泉が利用できる不動産の取引において、温泉権が問題となることがあります。
温泉権とは、温泉を利用する権利のことです(温泉利用権、温泉専用権、湯口権などと呼ばれることもあります)。
温泉権は、独立した権利として不動産の所有権とは別に取引の対象となっている場合もあります。
そのため、現在温泉が利用できる不動産を取得したとしても、取得後も当然に温泉を利用することができるとは限りません。
温泉を引き続き利用したければ、温泉権も別途確保しなければならない場合もあります。

【温泉】

温泉権には、温泉が湧出する土地(温泉湧出地)の所有者との契約等により得られる「債権」としての権利と、温泉湧出地の所有権とは別個の独立した「物権」としての権利とがあるとされています(温泉権について、一種の「物権」的権利たり得ることを肯定した判例として、大審院昭和15年9月18日判決。大審院とは、1875年(明治8年)から1947年(昭和20年)にかけて設置されていた最上級審の裁判所であり、同年の裁判所法の施行により廃止され、その権能は最高裁判所に引き継がれました)。
「債権」とは温泉湧出地の所有者に対し温泉を利用することを請求する権利があること(人に対する権利)を意味し、「物権」とは温泉を利用する権利を直接支配すること(物を支配する権利)を意味します。

この点、福岡高等裁判所昭和34年6月20日判決は、慣習により確立された公示方法(権利の存在を外部から認識し得る形で表示する方法)が存在すれば、「物権」としての温泉権の成立が肯定されると判示しました。

【温泉】

温泉権には、温泉が湧出する土地(温泉湧出地)の所有者との契約等により得られる「債権」としての権利と、温泉湧出地の所有権とは別個の独立した「物権」としての権利とがあるとされています(温泉権について、一種の「物権」的権利たり得ることを肯定した判例として、大審院昭和15年9月18日判決。大審院とは、1875年(明治8年)から1947年(昭和20年)にかけて設置されていた最上級審の裁判所であり、同年の裁判所法の施行により廃止され、その権能は最高裁判所に引き継がれました)。
「債権」とは温泉湧出地の所有者に対し温泉を利用することを請求する権利があること(人に対する権利)を意味し、「物権」とは温泉を利用する権利を直接支配すること(物を支配する権利)を意味します。

この点、福岡高等裁判所昭和34年6月20日判決は、慣習により確立された公示方法(権利の存在を外部から認識し得る形で表示する方法)が存在すれば、「物権」としての温泉権の成立が肯定されると判示しました。

【福岡高等裁判所昭和34年6月20日判決(抜粋)】
“被控訴人の本訴請求は、本件鉱泉地を含む宅地の賃借権者であり、且つ同一温泉の利用権者である控訴人が被控訴人の前記温泉利用権を妨害したとして、該温泉利用権の確認竝にこれに対する妨害の排除を求めるものであつて、その趣旨とするところは本件温泉利用権をもつて、泉源地の所有権から独立して取引の目的とされ、しかも任意譲渡性を有し、且つ対世的な効力のある一種の用益物権であるとするもののようである。
しかしこの種の権利を物権とするためには民法第一七五条の定める物権法定主義の建前から、右権利につき何ら成文法上の規定を有しない現行法制下においては、その根拠を専ら法律と同等の効力を有する慣習乃至は地方慣習の存在に求める以外にはない。
そして右権利を泉源地所有権から独立した物権であるとすれば、必然的にその権利の得喪変更を第三者に明認せしめるに足る特殊の公示方法が要請せられるのであり、従つてそのような公示方法が同じく慣習によつて確立されていることが当然に必要となる。
換言すれば一般に慣行づけられた公示方法の存在が認められる場合に、初めて慣習法による物権の成立を肯定することができるのである。”

そして、東京高等裁判所令和元年10月30日判決は、①温泉を湯口から採取して利用する権利は、温泉湧出地の土地所有権の権利の内容の一つに含まれるのが原則である、②通常、温泉湧出地の土地所有者以外の者が温泉を利用する権利は、(例えば、温泉湧出地の所有者との間で温泉の利用に関する契約を締結するなど)「債権」的な法律関係により形成される、③温泉権が所有権とは別に「物権」として成立するのは、温泉権を温泉湧出地の所有権とは別の独立した「物権」として認める慣習法が成立している地域に限られる、④そのような慣習法が成立しているのは歴史の古い自然湧出の温泉地が多いと考えられ、現代の高度な掘削技術により新たに湧出させた温泉については慣習法上の「物権」としての温泉権が成立することは原則としてないと考えられる、⑤そのような慣習法の成立が肯定されない限り、「物権」としての温泉権は認められず、温泉を利用する権利は土地所有権の一内容をなすものとして温泉湧出地の所有者に帰属し、それ以外の者は土地所有者から「債権」的に温泉の利用を許されるにすぎないと解するのが相当である、と判示しました。

【東京高等裁判所令和元年10月30日判決(抜粋)】
“本件において第1審原告が主張する温泉権は、源泉地から湧出する温泉を湯口から直接採取して排他的に支配する物権であり、温泉専用権又は湯口権などとも呼ばれるものである。
成文法上の根拠はなく、物権法定主義の例外の一つとされる。
このような温泉を湯口から採取して利用する権利は、湧出地の土地所有権の権利の内容の一つに含まれ、土地所有権とは別の独立した物権としては成立しないのが原則である。
通常は、湧出地の土地所有者以外の者が温泉を利用する権利は、債権的法律関係により形成される。
例外的に温泉権が所有権とは別に物権として成立するのは、温泉権を湧出地の所有権とは別の独立した物権として認める慣習法が成立している地域に限られる。
慣習法上の物権としての温泉権が湧出地の所有権とは別に独立の権利として成立しているのは、歴史の古い温泉であって、地表又はその近くに自然に湧出し、たいした地下掘削工事もせずに引湯できる場合が多いと考えられる。
高度な温泉掘削技術の必要もなく、江戸時代、明治時代から引湯が行われてきたが、明治時代の民法施行後に、温泉利用権の地域慣習法上の取り扱われ方が、債権法的構成によるよりも、物権法的構成による方がふさわしいと判断されたものが、慣習法上の物権として認められてきたものと考えられる。
慣習法上の物権を認めるというのは、明治民法施行前の慣習法が明治民法と合致しない場合において、明治民法の規律よりも慣習法上の規律の方が社会経済の実態に適合しているときの緊急避難的な措置にすぎない。
現代の高度な掘削技術をもって何十メートルも地下を掘削し、新たに湧出させた温泉については、原則として、慣習法上の温泉権を掘削地の所有権とは別の物権として成立することは、ないと考えられる。
掘削地所有者の所有権の一部を構成するものと考えれば足り、所有者以外の者が温泉を利用する権利は、賃借権や温泉利用契約などの債権的法律関係として構成すれば足りるからである。
なお、本件各温泉のうち、A温泉は深さ150メートル(甲●)であり,B温泉は深さ379メートル(甲▲)である。
第1審原告は、温泉を湧出させるためには多額の資本投下を必要とし、温泉権自体に極めて高い価値があるから、土地所有権とは別に、人工掘削によって物権としての温泉権が発生すると主張する。
しかしながら、多額の資本投下をしたから、債権的法律関係でなく物権が発生するとはいえない。
また、当該土地について無権利者である者が、掘削して温泉を掘り当てさえすれば物権としての温泉権を原始取得するとはいえないことも明らかである。
土地所有者から温泉掘削の承諾を得ていた者であっても、掘削により温泉を掘り当てれば当然に物権としての温泉権を原始取得するものではない。
温泉の利用、管理等については、債権的法律関係で処理することが通常は可能であるからである。
土地所有者と温泉掘削者が異なる場合は、両者の間に債権的関係が存在することが通常であるから、温泉を掘り当てるための投下資本の回収等については、その債権的関係の中で処理すべきものと考えられる。
したがって、慣習法の成立が肯定されない限り、土地所有権と離れた物権としての温泉権は認められず、温泉を利用する権利は、土地所有権の一内容をなすものとして湧出地の所有者に帰属し、それ以外の者は、土地所有者から債権的に温泉の利用を許されるにすぎないと解するのが相当である。”

以上を踏まえ、温泉湧出地から温泉を引き込んでいる不動産を取得し、温泉を引き続き利用したい場合を想定すると、「債権」としての温泉権を確保するためには、温泉湧出地の所有者との間で温泉の利用に関する契約を締結するのが基本的な対応となるでしょう。
一方で、温泉湧出地から温泉を引き込んでいる不動産の所有者が「債権」としての温泉権を保有しているのであれば、当該所有者からの債権譲渡により温泉権を取得することも考えられます。
しかし、債権譲渡は譲渡人(当該所有者)から債務者(温泉湧出地の所有者)に対する確定日付ある証書(内容証明郵便)による通知がなければ債務者その他の第三者に対抗(主張)することができず(民法467条)、債権譲渡を禁止・制限する旨の合意がなされている場合もあります(民法466条)。
また、温泉湧出地を取得し温泉を利用したい場合を想定すると、基本的には温泉湧出地の所有権を取得すれば足りることとなります。

これに対し、昔ながらの温泉地など慣習法により「物権」としての温泉権が成立している地域では、温泉権を確保するためには、温泉権の権利者から温泉権を購入するなどの方法により取得する必要があります。
そして、「物権」としての温泉権は、明認方法の設置がなければ、第三者に対し対抗(主張)することができないと考えられています(大審院昭和15年9月18日判決)。
明認方法の設置とは、温泉権を取得した旨の立札を設ける(東京高等裁判所昭和51年8月16日判決)、温泉組合・地方官庁(保健所)における温泉台帳登録を行う(大分地方裁判所昭和32年2月8日判決)などの方法により、温泉権の存在を外的に示すことを言います(大審院昭和15年9月18日判決)。
また、①送湯管の設備と営業施設等による温泉の現実支配から温泉利用の事実を認めるに足る客観的状況が存在することをもって、温泉権の明認方法であると認める裁判例(山形地方裁判所昭和43年11月25日判決)、②掘削時に作業所・ポンプ室・温泉櫓を建造し、これらを維持管理して所有権保存登記をしたこと、また所有権を表示した看板を設置したことをもって、温泉権の明認方法であると認める裁判例(東京地方裁判所昭和45年12月19日判決)、③引湯施設の設置および旅館営業等により、現実に温泉権の権利者が温泉を採取・利用・管理している客観的事実が存在することをもって、温泉権の明認方法であると認める裁判例(高松高等裁判所昭和56年12月7日判決)、④源泉湧出口およびそれに隣接して採湯場、事務所および温泉擁護建物を建築し、これらの建物について所有権保存登記をしたこと、また譲受人がこれらの建物の所有権移転登記をし、源泉権が自己の権利に属する旨の表示板を設置したことをもって、温泉権の明認方法であると認める裁判例(仙台高等裁判所昭和63年4月25日判決)があります。

以上を踏まえ、温泉が利用できる不動産を取得する場合には、事前に、取得予定地・温泉湧出地の現地確認を行うのはもちろん、温泉組合・地方官庁(保健所)に対する問い合わせ、取得予定地・温泉湧出地の所有者に対する確認などを行うことをお勧めいたします。
また、温泉が利用できることを大前提とするのであれば、「温泉権を確保できないなど温泉の利用に障害がある場合には、契約を解除することができる」という趣旨の条項を不動産売買契約書に盛り込むなどの対策が考えられます。
そして、「物権」としての温泉権を取得した場合には、前述のような明認方法の設置を必ず行うようにしましょう。

2 稲垣温泉

稲垣温泉は、つがる市にある温泉です。
江戸時代から旧稲垣村の集落に地下水を沸かした公衆浴場がありましたが、水量が減少したためボーリングを実施し、1966年(昭和41年)に源泉開発に成功しました。
最大湧出量が毎分1000Lと湯量が豊富です。

2024年7月某日、稲垣温泉を訪れました。
稲垣温泉に来るのは今回が初めてであり、一軒宿の「稲垣温泉ホテル花月亭」(以下、「ホテル花月亭」様と言います)で日帰り入浴を楽しみました。

【宿の外観】

「ホテル花月亭」様では、内湯と露天風呂で温泉入浴を楽しむことができます。
泉質は「ナトリウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

【宿の外観】

「ホテル花月亭」様では、内湯と露天風呂で温泉入浴を楽しむことができます。
泉質は「ナトリウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

泉質別適応症 きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
泉質別禁忌症 なし

その他、以下のような効能があるとされています。
①「塩化物泉」は、温泉の成分が肌に吸着しやすく保温・保湿効果が高いため、湯冷めしにくく湯上り後の肌の乾燥が抑制されるという特徴があるとされています。
②アルカリ性・弱アルカリ性の温泉は、古い角質を除去する美肌効果があるとされています。

【温泉】

※温泉の写真は「Amazing AOMORI」(青森県観光情報サイト)の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

「ホテル花月亭」様の湯は無色透明であり、ヌルヌル感のある湯ざわりでした。
体がよく温まる名湯であり、疲れた体を癒してくれました。

【温泉】

※温泉の写真は「Amazing AOMORI」(青森県観光情報サイト)の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

「ホテル花月亭」様の湯は無色透明であり、ヌルヌル感のある湯ざわりでした。
体がよく温まる名湯であり、疲れた体を癒してくれました。

3 温泉地役権

地役権とは、一定の目的のために他人の土地を利用する権利のことを言います。
温泉を利用するにあたり、温泉湧出地と温泉利用場所とが離れている場合には、引湯のための配管を設置する必要があります。
そして、配管が第三者の土地を通る場合には、配管を通すことについて第三者の承諾を得る(地役権を認めてもらう)必要があります。
このように、温泉を引くための配管の設置を目的とする地役権のことを温泉地役権と言います。
温泉地役権は、温泉権とは別個の権利です。

温泉地役権は、単に土地所有者の承諾を得るだけではなく、温泉地役権の設定登記をすることが大切です。
なぜなら、配管を通した土地が別の人に売却等された場合、温泉地役権の設定登記なくして、新たな土地所有者に対し温泉地役権を対抗(主張)することができないのが原則であるからです。
そのため、新たな土地所有者から配管の撤去を求められた場合には、撤去に応じなければならないのが原則となります。

ただし、通行地役権に関する判例として、「通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である」とするものがあります(最高裁判所平成10年2月13日判決)。
この判例の趣旨からすれば、引湯のための配管が通っていることが客観的に認識可能な状況なのであれば、温泉地役権の設定登記がなくても、新たな土地所有者に対し温泉地役権を対抗(主張)できることになると考えられます。

以上のように、温泉を利用するためには、温泉権があるだけではなく、温泉湧出地から温泉を引く過程における権利関係についても、検討することが必要となる場合があります。

4 五戸まきば温泉

五戸まきば温泉は、五戸町にある温泉です。
牧場の一角に温かみを感じる場所があり、牧場経営者が牧場の一部を売り払って掘削したところ、源泉の開発に成功しました。
温泉を開設したのは1977年(昭和52年)であり、宿泊施設として温泉名と同名の一軒宿「五戸まきば温泉」様があります。

2024年7月某日、五戸まきば温泉を訪れました。
五戸まきば温泉には過去に何度か来訪しており、今回も「五戸まきば温泉」様に宿泊しました。

【宿の外観】
 

まずは、温泉をご紹介いたします。
「五戸まきば温泉」様では、内湯と露天風呂で温泉入浴が楽しめます。
なお、循環・ろ過が行われています。
泉質は「ナトリウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

【宿の外観】

 

まずは、温泉をご紹介いたします。
「五戸まきば温泉」様では、内湯と露天風呂で温泉入浴が楽しめます。
なお、循環・ろ過が行われています。
泉質は「ナトリウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

泉質別適応症 きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
泉質別禁忌症 なし

その他、以下のような効能があるとされています。
①「塩化物泉」は、温泉の成分が肌に吸着しやすく保温・保湿効果が高いため、湯冷めしにくく湯上り後の肌の乾燥が抑制されるという特徴があるとされています。
②アルカリ性・弱アルカリ性の温泉は、古い角質を除去する美肌効果があるとされています。

「五戸まきば温泉」様の湯は、無色透明のヌルヌルとした泉質であり、体がよく温まりました。
夕刻、夜、翌朝の3回にわたり、温泉入浴を楽しみました。

なお、温泉(浴室)の写真は「五戸まきば温泉」様の公式サイトをご覧ください。

そして、「五戸まきば温泉」様のお食事は、夕食に五戸町の特産品である馬肉を使用したさくら鍋が付いた和食膳を美味しくいただきました。
また、翌朝はベーコンエッグをメインとする朝食膳をいただきました。

【夕食】
 

 
※お膳の右上にあるのはピザ風の焼き鮭です。

【朝食】

【夕食】

 

 

 

※お膳の右上にあるのはピザ風の焼き鮭です。
 
【朝食】

5 温泉環境権

土地使用権である温泉権とは別に、環境権としての温泉環境権があります。
環境権としては日照権がよく知られており、例えば日照を遮られることにより損害が生じた場合は、補償を請求することができます。

そして、温泉環境権とは、温泉周辺の環境の変更により温泉の利用をかく乱されない権利のことを言います。
例えば、温泉周辺の開発や地下水のくみ上げにより、湧出量の減少や泉質の変化の損害が生じた場合には、補償を請求することができると考えられます。

なお、温泉環境権は、前述の温泉権に基づいて温泉を利用している場合はもちろん、土地の所有権や借地権に基づいて温泉を利用している場合にも、請求することができます。

【玉川温泉】

※玉川温泉の写真は「PIXTA」様で購入し、ライセンスを得たイメージ画像です。

この点、1974年、秋田県鹿角市に大沼地熱発電所が建設され、本格的に発電が開始された頃から、周辺の温泉に変化が見られるようになった、という出来事がありました。
十数km離れた玉川温泉(秋田県仙北市)の源泉にも異変が起こり、湧出量の減少と泉質の変化がありました。
この泉質の変化は温泉水の中和処理の条件にも影響する重大事でしたが、原因が地熱発電にあるのかどうかは定かではなく、検証することも困難でした。
温泉には元々数十年単位の周期的な泉質変動があることも多く、火山性の温泉の場合には火山活動の影響もあり得るなど、様々な要素が複合的に作用するものであるため、特定の要素だけを抽出して因果関係を検証するのは困難な場合が少なくありません。

【玉川温泉】

※玉川温泉の写真は「PIXTA」様で購入し、ライセンスを得たイメージ画像です。

この点、1974年、秋田県鹿角市に大沼地熱発電所が建設され、本格的に発電が開始された頃から、周辺の温泉に変化が見られるようになった、という出来事がありました。
十数km離れた玉川温泉(秋田県仙北市)の源泉にも異変が起こり、湧出量の減少と泉質の変化がありました。
この泉質の変化は温泉水の中和処理の条件にも影響する重大事でしたが、原因が地熱発電にあるのかどうかは定かではなく、検証することも困難でした。
温泉には元々数十年単位の周期的な泉質変動があることも多く、火山性の温泉の場合には火山活動の影響もあり得るなど、様々な要素が複合的に作用するものであるため、特定の要素だけを抽出して因果関係を検証するのは困難な場合が少なくありません。

この件は、結局、大沼地熱発電所を運営する三菱金属株式会社様(現在の三菱マテリアル株式会社様)が自主的に発電施設の改善を図り、泉質がその後徐々に回復したことにより事なきを得ました。
しかし、この時の泉質の変化が地熱発電によるものかどうかは結局判然としておらず、その約30年後にも類似の泉質の変化があったことから、周期的な泉質変動であった可能性が高いとも言われています。

このように、温泉環境権の侵害の可能性がある事案が発生したとしても、発生した損害(湧出量の減少や泉質の変化)の原因と思われる行為(温泉周辺の開発や地下水のくみ上げ)との因果関係の立証が高いハードルとなり、実際には補償を請求することが困難な場合も多いであろうと考えられます。

6 南田温泉

南田温泉は、平川市にある温泉です。
旧平賀町に位置し、平賀温泉郷に属しています。
1971年(昭和46年)、りんごの移動商をしていた社長が従業員の福利厚生と地域振興のために温泉を掘削したのが始まりです。

2024年7月某日、南田温泉を訪れました。
南田温泉に来るのは今回が初めてであり、一軒宿である「津軽のお宿 南田温泉ホテルアップルランド」様(以下、「アップルランド」様と言います)に宿泊しました。

【宿の外観】

「アップルランド」様は大型のホテルであり、私が宿泊した日には北海道の小学校が修学旅行で利用していました。
屋上にはりんごを掲げた「りんご大観音」が立っています。

【温泉】

※温泉の写真は「Amazing AOMORI」(青森県観光情報サイト)の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

まずは、「アップルランド」様の温泉をご紹介いたします。
泉質は「ナトリウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

【宿の外観】

「アップルランド」様は大型のホテルであり、私が宿泊した日には北海道の小学校が修学旅行で利用していました。
屋上にはりんごを掲げた「りんご大観音」が立っています。

【温泉】

※温泉の写真は「Amazing AOMORI」(青森県観光情報サイト)の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

まずは、「アップルランド」様の温泉をご紹介いたします。
泉質は「ナトリウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性高温泉)」であり、浴用の泉質別適応症・泉質別禁忌症は以下のとおりです。

泉質別適応症 きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
泉質別禁忌症 なし

以下のような効能があるとされています。
①「塩化物泉」は、温泉の成分が肌に吸着しやすく保温・保湿効果が高いため、湯冷めしにくく湯上り後の肌の乾燥が抑制されるという特徴があるとされています。
②アルカリ性・弱アルカリ性の温泉は、古い角質を除去する美肌効果があるとされています。

「アップルランド」様の湯は、無色透明の柔らかな泉質であり、肌のスベスベ感が感じられました。
大浴場ではりんごを浮かべた内湯「りんご湯」と露天風呂があり、源泉に近い中浴場でも内湯と露天風呂で温泉入浴を楽しみました。

【キン肉マンねぶた】

また、「アップルランド」様の館内には、私が好きな漫画「キン肉マン」のねぶたが展示されていました。

そして、「アップルランド」様のお食事は、夕食・朝食とも青森県産の旬の食材を使用したビュッフェ料理をお腹いっぱいいただきました。

【キン肉マンねぶた】

また、「アップルランド」様の館内には、私が好きな漫画「キン肉マン」のねぶたが展示されていました。

そして、「アップルランド」様のお食事は、夕食・朝食とも青森県産の旬の食材を使用したビュッフェ料理をお腹いっぱいいただきました。

【夕食】
 

 

【朝食】
 

【夕食】

 

 

 

 
【朝食】

 

7 宇奈月温泉事件

温泉に関する有名な裁判として「宇奈月温泉事件」(「宇奈月温泉木管事件」とも言います)があります(大審院昭和10年10月5日判決)。
「宇奈月温泉事件」は富山県下新川郡内山村(現在の黒部市)で起きた民事事件であり、その大審院判決は民法上重要な判例の一つとして、法学生の誰もが最初期の頃に学習します。

【宇奈月温泉木管事件碑】

※宇奈月温泉木管事件碑の写真は黒部・宇奈月温泉観光局様の公式サイト「黒部めぐり」の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

宇奈月温泉は、約7.5km先にある黒薙温泉から地下に埋設した引湯管(当時は木管)により湯を引いていました。
この引湯管は、大正の頃にA社が30万円(当時の価格)もの巨費を投じ、埋設する土地の利用権を有償または無償で獲得し、完成させたものでした。
その後、A社により開始された温泉営業は、Y社(黒部鉄道株式会社様。現在の富山地方鉄道株式会社様)に引き継がれました。
しかし、この引湯管は、途中で利用権を得ていないBが所有する112坪の土地(以下、「本件土地」と言います)の一部(2坪ほどの急傾斜地)をかすめていました。
その後、本件土地は、BからCに譲渡され、さらにXがこれを買い受け所有するに至りました。
そして、Xは、Y社に対し、本件土地の不法占拠を理由として、引湯管を撤去するか、さもなければ本件土地周辺のX所有地(荒地)を含めた合計約3000坪を時価の数十倍で買い取るように求めました。
Y社がこの要求に応じなかったため、Xは、Y社に対し、引湯管の撤去等を求めて提訴しました。

【宇奈月温泉木管事件碑】

※宇奈月温泉木管事件碑の写真は黒部・宇奈月温泉観光局様の公式サイト「黒部めぐり」の無料写真ダウンロードにより入手したイメージ画像です。

宇奈月温泉は、約7.5km先にある黒薙温泉から地下に埋設した引湯管(当時は木管)により湯を引いていました。
この引湯管は、大正の頃にA社が30万円(当時の価格)もの巨費を投じ、埋設する土地の利用権を有償または無償で獲得し、完成させたものでした。
その後、A社により開始された温泉営業は、Y社(黒部鉄道株式会社様。現在の富山地方鉄道株式会社様)に引き継がれました。
しかし、この引湯管は、途中で利用権を得ていないBが所有する112坪の土地(以下、「本件土地」と言います)の一部(2坪ほどの急傾斜地)をかすめていました。
その後、本件土地は、BからCに譲渡され、さらにXがこれを買い受け所有するに至りました。
そして、Xは、Y社に対し、本件土地の不法占拠を理由として、引湯管を撤去するか、さもなければ本件土地周辺のX所有地(荒地)を含めた合計約3000坪を時価の数十倍で買い取るように求めました。
Y社がこの要求に応じなかったため、Xは、Y社に対し、引湯管の撤去等を求めて提訴しました。

裁判では、第一審・第二審ともY社が勝訴し、Xの請求は退けられました。
第二審では、引湯管の撤去・迂回には莫大な費用を要し、迂回させれば湯温の低下や工事中断による減収ひいては宇奈月集落の衰退を招くことから事実上不可能であること、本件土地の価値は二束三文であること、CおよびXは引湯管の存在を知っていたことを認定して、Xの請求は認められないと判断しました。
これに対し、Xは「個人主義的体系ニ基ク財産制度ニ於テハ、所有権ハ絶対的ニ且排他的ニ総括支配力ヲ有シ使用収益処分ノ作用ヲ有スルコト論ヲ俟タス」などと主張し、上告しました。
大審院もまた、Xの請求を「権利ノ濫用」と判断し、第二審の判決を支持したため、Y社の勝訴が確定しました。

【大審院昭和10年10月5日判決(抜粋)】
“所有権ニ対スル侵害又ハ其ノ危険ノ存スル以上所有者ハ斯ル状態ヲ除去又ハ禁止セシムル為メ裁判上ノ保護ヲ請求シ得ヘキヤ勿論ナレトモ該侵害ニ因ル損失云フニ足ラス而モ侵害ノ除去著シク困難ニシテ縦令之ヲ為シ得ルトスルモ莫大ナル費用ヲ要スヘキ場合ニ於テ第三者ニシテ斯ル事実アルヲ奇貨トシ不当ナル利益ヲ図リ殊更侵害ニ関係アル物件ヲ買収セル上一面ニ於テ侵害者ニ対シ侵害状態ノ除去ヲ迫リ他面ニ於テハ該物件其ノ他ノ自己所有物件ヲ不相当ニ巨額ナル代金ヲ以テ買取ラレタキ旨ノ要求ヲ提示シ他ノ一切ノ協調ニ応セスト主張スルカ如キニ於テハ該除去ノ請求ハ単ニ所有権ノ行使タル外形ヲ構フルニ止マリ真ニ権利ヲ救済セムトスルニアラス即チ如上ノ行為ハ全体ニ於テ専ラ不当ナル利益ノ掴得ヲ目的トシ所有権ヲ以テ其ノ具ニ供スルニ帰スルモノナレハ社会観念上所有権ノ目的ニ違背シ其ノ機能トシテ許サルヘキ範囲ヲ超脱スルモノニシテ権利ノ濫用ニ外ナラス従テ斯ル不当ナル目的ヲ追行スルノ手段トシテ裁判上侵害者ニ対シ当該侵害状態ノ除去並将来ニ於ケル侵害ノ禁止ヲ訴求スルニ於テハ該訴訟上ノ請求ハ外観ノ如何ニ拘ラス其ノ実体ニ於テハ保護ヲ与フヘキ正当ナル利益ヲ欠如スルヲ以テ此ノ理由ニ依リ直ニ之ヲ棄却スヘキモノト解スルヲ至当トス”

その後、戦後の民法改正により、「権利ノ濫用ハ之ヲ許サス」(民法1条3項)と明文化されました(現在では、民法の現代語化により「権利の濫用は、これを許さない。」という条文に改められています)。
「宇奈月温泉事件」は、権利を濫用してはならないという民法の基本原則に大きな影響を与えたと言えます。

8 おわりに

今回は、青森県の3つの温泉のご紹介と、温泉に関する法律問題の解説を中心にお話しさせていただきました。

今後も引き続き、温泉に関する日常コラムを継続的に執筆・掲載して参ります。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年7月19日

※本コラムの記事内容は、記事更新日時点の法令・指針および温泉分析書の掲示等に基づくものです。記事更新日以降に法令・指針の改正・改訂および温泉成分の再分析等、その他事情の変更があった場合でも、記事内容の加筆・修正等を行うことは予定しておりません。あらかじめ、ご了承ください。

温泉記事の一覧

【執筆者:代表弁護士・木村哲也】

番号 年月日 タイトル 内容
13 2024.10.23 代表弁護士の温泉紀行⑬ 青森県の温泉その13
【温泉紹介】
①大鰐温泉(その2)、②酸ヶ湯温泉(その2)、③梅沢温泉
【温泉解説】
①温泉入浴と運動・食事・飲酒、②温泉と文化財、③蒸し湯、④泉質別の特徴と効能
12 2024.9.27 代表弁護士の温泉紀行⑫ 青森県の温泉その12
【温泉紹介】
①板留温泉、②落合温泉、③下風呂温泉(その2)、④新大秋温泉
【温泉解説】
①温泉番付、②美人の湯、③子宝の湯、④湯めぐり、⑤温泉ソムリエマスター(その2)
11 2024.8.29 代表弁護士の温泉紀行⑪ 青森県の温泉その11
【温泉紹介】
①嶽温泉(その2)、②温湯温泉、③平舘不老ふ死温泉
【温泉解説】
①温泉地と名物グルメ、②温泉地と伝統工芸、③温泉地と文学、④温泉宿の後継者問題
10 2024.7.19 代表弁護士の温泉紀行⑩ 青森県の温泉その10
【温泉紹介】
①稲垣温泉、②五戸まきば温泉、③南田温泉
【温泉解説】
①温泉権、②温泉地役権、③温泉環境権、④宇奈月温泉事件
2024.7.2 代表弁護士の温泉紀行⑨ 青森県の温泉その9
【温泉紹介】
①古遠部温泉、②相乗温泉、③寒水沢温泉
【温泉解説】
①温泉偽装問題とは、②温泉偽装問題の影響、③近時の不祥事事例①温泉表示問題、④近時の不祥事事例②温泉の衛生問題
2024.6.19 代表弁護士の温泉紀行⑧ 青森県の温泉その8
【温泉紹介】
①百沢温泉、②三本柳温泉、③みちのく深沢温泉
【温泉解説】
①かけ流し・循環のメリット・デメリット、②入浴前に体を洗うか?かけ湯をするだけか?、③頭にタオルを乗せる理由、④内風呂と露天風呂ではどちらに先に入るか?
2024.6.5 代表弁護士の温泉紀行⑦ 青森県の温泉その7
【温泉紹介】
①古牧温泉、②浅虫温泉(その2)、③湯野川温泉
【温泉解説】
①入湯税と物価統制令、②温泉地の景観計画・景観形成、③飲泉、④温泉利用基準(水質基準を中心に)
2024.5.23 代表弁護士の温泉紀行⑥ 青森県の温泉その6
【温泉紹介】
①青荷温泉、②蔦温泉、③猿倉温泉
【温泉解説】
①温泉入浴の効果、②温泉入浴の3大効果、③効果的な温泉入浴の回数、④温泉ソムリエマスター
2024.5.9 代表弁護士の温泉紀行⑤ 青森県の温泉その5
【温泉紹介】
①大鰐温泉、②薬研温泉、③奥薬研温泉、④恐山温泉
【温泉解説】
①温泉法が定めるルール、②公衆浴場法・旅館業法が定めるルール、③温泉の表示に関するルール、④温泉の衛生管理に関するルール、⑤温泉経営における法務リスク
2024.4.17 代表弁護士の温泉紀行④ 青森県の温泉その4
【温泉紹介】
①嶽温泉、②湯段温泉、③城ヶ倉温泉
【温泉解説】
①環境省「令和4年度温泉利用状況」、②嶽温泉の源泉問題、③基本的な入浴法(全身浴・半身浴・足浴など)、④入浴事故を防止するための入浴法
2024.4.3 代表弁護士の温泉紀行③ 青森県の温泉その3
【温泉紹介】
①黄金崎不老ふ死温泉、②鯵ヶ沢温泉、③上北さくら温泉、④東北温泉
【温泉解説】
①温泉の色、②湯の花、③温泉のにおい、④温泉の湯ざわり、⑤温泉の温度
2024.3.26 代表弁護士の温泉紀行② 青森県の温泉その2
【温泉紹介】
①下風呂温泉、②酸ヶ湯温泉、③奥入瀬渓流温泉
【温泉解説】
①天然温泉と人工温泉、②温泉はどうやってできるか?、③源泉・元湯・引湯・かけ流し・循環について、④温泉ソムリエ検定
2024.2.6 代表弁護士の温泉紀行① 青森県の温泉その1
【温泉紹介】
①浅虫温泉、②谷地温泉
【温泉解説】
①温泉とは、②温泉むすめ、③温泉ソムリエ

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